バルプロ酸ナトリウム徐放錠とバルプロ酸ナトリウム錠との間違いも数多く報告されており注意が必要

ヒヤリ・ハット事例収集

一般名処方が増えたことにより,バルプロ酸ナトリウム徐放錠とバルプロ酸ナトリウム錠の処方間違い・取り間違いが増えているようです。

※関連情報:バルプロ酸ナトリウムは、カルバペネム系抗生物質(注射薬が多い)と併用禁忌であり,こちらにも注意が必要な薬剤ですね。



薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 からの引用

薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業,共有すべき事例,2018年No.1 事例2からの引用です。

 

事例

【事例の内容】
処方箋に【般】バルプロ酸Na徐放錠100mgと記載されていたが、【般】バルプロ酸Na錠100mgと入力し、バレリン錠100mgを調剤した。鑑査者、交付者ともに、間違いに気付かないまま患者に交付した。後日、入力間違い、および薬剤の取り違えがわかったため、処方医に報告した。

【背景・要因】
処方箋の確認がしっかりできていなかった。注意不足だった。

【薬局が考えた改善策】
入力した処方内容を確認する時は、規格や剤形についても処方箋と照らし合わせる。目で見るだけでなく、指差し確認、チェック入れなどを徹底する。

 

事例のポイント

●一般名の中には、「徐放」「12時間持続」「24時間持続」など作用の持続時間が表記された薬剤がある。

●剤形が複数ある薬剤の取り違えを防ぐには、薬剤の作用持続時間等の特徴を薬品棚に表示することで注意喚起することも重要な対策の一つである。

●処方箋の入力作業は事務員が行うことが多いが、一般名から調剤すべき薬剤を特定することを含め、調剤設計は薬剤師の責務である。

 

バルプロ酸Na徐放錠 と バルプロ酸Na錠

事例は『バルプロ酸Na徐放錠100mg』を調剤しないといけない所、誤って『バルプロ酸Na錠100mg』を調剤してしまった。
という事例でしたね。
それでは、この2剤の違いについておさらいしておきましょう。

※バルプロ酸Na徐放錠の代表として、デパケンR錠の添付文書から
バルプロ酸Na錠の代表として、デパケン錠の添付文書から情報を引用してゆきます。

 

効能・効果,用法・用量

効能・効果はどちらも同じです。

1. 各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療

2.躁病および躁うつ病の躁状態の治療

3.片頭痛発作の発症抑制

 

用法・用量が異なります

てんかんの治療or躁病の治療に使うとき

デパケン-の添付文書より引用・抜粋
通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400~1,200mgを1日2~3回に分けて経口投与する。

デパケンR錠-の添付文書より引用・抜粋
通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400〜1,200mgを1日1〜2回に分けて経口投与する。

 

片頭痛の治療に使うとき

デパケン錠-の添付文書より引用・抜粋
通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400~800mgを1日2~3回に分けて経口投与する。

デパケンR錠-の添付文書より引用・抜粋
通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400〜800mgを1日1〜2回に分けて経口投与する。

つまり徐放錠(R錠)のほうが、徐放性(ゆっくり溶け出す性質)があるので、服用回数は少なくてOKという違いですね。

順番が逆になってしまいましたが、続いて禁忌も確認しておきます。

 

禁忌はどちらも同じです

【禁忌(次の患者には投与しないこと)】
1)重篤な肝障害のある患者[肝障害が強くあらわれ致死的になるおそれがある。]
2)本剤投与中はカルバペネム系抗生物質(パニペネム・ベタミプロン、メロペネム水和物、イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム、ビアペネム、ドリペネム水和物、テビペネム ピボキシル)を併用しないこと。[「相互作用」の項参照]
3)尿素サイクル異常症の患者[重篤な高アンモニア血症があらわれることがある。]

肝機能障害を起こす可能性

バルプロ酸Naは、重篤な肝障害のある患者さんには使えませんし、副作用として劇症肝炎黄疸脂肪肝等を起こすことがあるので、定期的に検査を行う必要のある薬剤です。

 

カルバペネム系抗生物質-併用ダメ

併用することにより、バルプロ酸の血中濃度が低下して(薬の効果が現れなくなることにより,てんかん発作を起こして)しまう恐れがあるので、カルバペネム系抗生物質との併用はできません。

一般名
(略称)
代表的な
商品名
剤形
パニペネムカルベニン注射(点滴)
メロペネムメロペン注射(点滴)
イミペネムチエナム注射(点滴)(筋注)
ビアペネムオメガシン注射(点滴)
ドリペネムフィニバックス注射(点滴)
テビペネムオラペネム細粒(小児用)

 

高アンモニア血症を起こす可能性

尿素サイクル異常症の患者さんには使えませんし、副作用として高アンモニア血症を伴う意識障害があらわれることがあるので、定期的にアンモニア値を測定する必要がある薬剤です。

 

その他の違い

バルプロ酸Na錠は吸湿性が高いので一包化には向きませんが、
バルプロ酸Na徐放錠の方は特殊フィルムコーティング&糖衣により一包化が可能となっています。

あと、薬価もちょっとだけ違いますね。

 

以上、本当に基本的な情報だけ比較しました。

以下、余談です。

現場の薬剤師として望むこと

上記,事例のポイントにも出てきたとおり、調剤設計は薬剤師の責務ですし,薬局で起きてしまった薬剤の取り違えは、薬剤師の責任以外の何ものでもありません。これについて責任転嫁するつもりは一切ありません。
と、前置きをした上で言うのですが

国(厚生労働省)も、もうちょっと命名ルールを厳しくするべきでしょう。
ジェネリック医薬品の商品名(の一部)を各社自由につけているのが良くない。
改善して欲しいです。

どうゆう事か、具体的に言います、

【般】バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg のこの「徐放錠」という部分について
ある会社は「R錠」(デパケンR錠200mg)と表現し
別の会社は「SR錠」(バルプロ酸ナトリウムSR錠200mg「アメル」)と表現し、また
別の会社は「徐放B錠」(バルプロ酸Na徐放B錠200mg「トーワ」)と表現しています。
コレ、混乱を招きますので、あまり良くありません。

「先発メーカーがR錠と表現してるから、ジェネリック医薬品もR錠と表現すること!」
国がそう”交通整理”をしてくれたらいいのですが、
それが国民(患者)の利益(メリット)にもなると思うのですが、

現場の薬剤師からの望みです。



最後に

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