最小包装の100錠の小箱で買ったり、よく出ている薬は1,000錠の大箱で買ったりしています。 しかし、医薬品卸によっては また 品目によっては 分割 で買うことができます。
※このページで出てくる「分割」とは、例えば最小包装が100錠1箱の薬でも 医薬品卸が10錠1シートなどの単位に小分けに分割して販売する方法の事として扱ってゆきます。
以下、薬局が医薬品卸から 分割 で薬を買う事のメリットとデメリットについて書きまとめてゆきます。
※結論を言ってしまうと 分割 はデメリットの方が大きいです。
ですから、このページのタイトルも「デメリットとメリット」と、あえてデメリットを先にしています。
医薬品卸から薬を分割で買うことのメリット
医薬品卸から薬を分割で買うことのメリットは何と言ってもこれです。「期限切れになった場合の廃棄金額を最小限に抑えられる」
・次回で処方が終了するとわかっている。
・今回の1回限りの処方だとわかっている。
このような場合に利用するとメリットがあります。
医薬品卸から薬を分割で買うことのデメリット
デメリットはこれです。「販売価格が高い」
分割 の場合の販売価格は通常 薬価のままです。
そして、この販売価格(薬価と同額)に消費税がかかってきますので、支払う金額は 薬価+消費税分 となります。 そしてこの薬を全て調剤することが出来ても、薬局へは薬価分の薬剤料しか入ってきません。
消費税分は毎回確実に損する買い方です。
【例】
例えば、薬価が100円/錠の薬を医薬品卸から10錠分割で購入する場合
購入金額=(100円/錠×10錠)+消費税10%=1,100円 です。
※全国でこのような契約になっているかどうかまではわかりませんが、少なくとも 大阪の小グループ薬局である当薬局は この値段で買っています。仲間の話を聞く限り、おそらく全国的にも同じでしょう。
そしてこの10錠を全て調剤した場合の保険収入(薬剤料)は
保険収入=薬剤料=100円/錠×10錠=1,000円 です。
やはり、消費税分の100円損しています。
メリットとデメリットを比較
メリットは「期限切れになった場合の廃棄金額を最小限に抑えられる」という金銭的なものでした。デメリットも「販売価格が高い」という金銭的なものでした。
どちらも金銭的なもの同士なので、非常に比較がしやすいです。
例をあげて比較してゆきます。
【例】
※1錠100円の薬だとします。
※消費税は10%とします。
※箱買い時の価格は18%引き(+消費税)の契約だとします。
※発注から配送のスケジュールは箱でも分割でも同じだとします。(分割に有利な前提)
① いつも来られている患者さんに1日1回1錠30日分の処方が出ました。
患者さんもDRから「続くかどうかは分からない。検査結果次第」と言われています。
『分割①』:30錠を分割で購入。
(100円×30錠)×消費税=3,300円
『箱買①』:100錠1箱を購入。
((100円×100錠)×0.82)×消費税=9,020円
調剤すると薬価分の3,000円は得られますので、この①時点では
分割①:300円の損が確定(30錠分の薬価差損)。
箱買①:294円の益が確定(30錠分の薬価差益)。と6,314円(70錠分)損するかもしれない。
ですが、普通の薬局は患者さんに毎回毎回仕入れを待ってもらうような事はしませんので、次回分は用意してお待ちしています。これを考慮すると
分割①:300円の損+3,300円(30錠分)損するかもしれない。
箱買①:294円の益+6,314円(70錠分)損するかもしれない。
に変わります。
② 再度30日分の処方が出ました。DRから同じように「次回も処方するかどうかは分からない。検査結果次第」と言われているようです。
『分割②』:次回分30錠をまた購入します。
『箱買②』:次回分として40錠あるので、今回は購入しません。
分割②:600円の損+3,300円(30錠分)損するかもしれない。
箱買②:588円の益+3,608円(40錠分)損するかもしれない。
③ 再度30日分の処方が出ました。DRから同じように「次回も処方するかどうかは分からない。検査結果次第」と言われています。
分割③:900円の損+3,300円(30錠分)損するかもしれない。
箱買③:882円の益+902円(10錠分)損するかもしれない。
・・・という計算を繰り返したものが下表です。
- | 詳細 | 分割で購入 | 箱で購入 |
---|---|---|---|
① | 30日分処方 | 30錠→0錠→次回分として30錠購入 | 100錠購入→70錠 |
確定した損益 | 300円の損 | 294円の利益 | |
もしも処方が止まったら | 3,300円の損(仮) | 6,314円の損(仮) | |
② | 30日分処方 | 30錠→0錠→次回分として30錠購入 | 70錠→40錠 |
確定した損益 | 600円の損 | 588円の利益 | |
もしも処方が止まったら | 3,300円の損(仮) | 3,608円の損(仮) | |
③ | 30日分処方 | 30錠→0錠→次回分として30錠購入 | 40錠→10錠→次回分を購入し110錠 |
確定した損益 | 900円の損 | 882円の利益 | |
もしも処方が止まったら | 3,300円の損(仮) | 902円の損(仮) ※100T1箱は返品可能 |
|
④ | 30日分処方 | 30錠→0錠→次回分として30錠購入 | 110錠→80錠 |
確定した損益 | 1,200円の損 | 1,176円の利益 | |
もしも処方が止まったら | 3,300円の損(仮) | 7,216円の損(仮) | |
⑤ | 30日分処方 | 30錠→0錠→次回分として30錠購入 | 80錠→50錠 |
確定した損益 | 1,500円の損 | 1,470円の利益 | |
もしも処方が止まったら | 3,300円の損(仮) | 4,510円の損(仮) |
「あれぇ? 堅実だと思っていた分割購入って、めっちゃ損かも?」と思いませんか? そうです。
分割購入って、めっちゃ損なんです。
さらに視覚的にわかりやすくグラフにしたのが下表です。
それぞれの「確定した損益 と 仮の損益 との合計値」をプロットしたグラフです。 最初は「止まるかも?」と心配になりますが、そんな時はこのグラフをみて落ち着いて考えて下さい。
結論:分割はこの場合だけにしよう
分割購入のメリットの項目でも書きましたが、・次回で処方が終了するとわかっている。
・今回の1回限りの処方だとわかっている。
この場合だけは、分割購入を活用するの良いでしょう。 あとは「止まったらどうしよう?」という、考えてもわかるはずも無い内容で悩むのはやめて、スパッと箱買いするのが良いです。
※それでも高額商品だから止まるのが心配だ!という方へのオススメは、
『初回は分割で購入。そして次回処方が出た時に備えて箱買い。次回が出なかったら返品。その後続いたらもちろん箱買い。』
こちらです。
定期的に 分割 で購入している品目がある薬局は、ぜひ見直してみてください。
余談 ~行動経済学~
誰しも 目の前にありわかりやすい損失は回避したがるものです。(行動経済学でいう損失回避性)当ページでいう「処方中止が怖くて分割購入をしてしまう」がそれにあたります。
しかし、わかりやすい損失を回避することが 結果プラスになるとは限らないというのが、行動経済学の研究で証明されています。
この本なんか、行動経済学の基本的な内容がほとんど書かれていますし、薬剤師も行動経済学を勉強しておくのはオススメです。
また、行動経済学を医療の現場にあてはめて考えてくれているこの本もオススメです。医療従事者である薬剤師は読みやすいですし、行動経済学の活用方法を具体的に想像できます。
他にも色々と書いています
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