エストリール錠は,乳癌が再発するおそれがあるため,乳癌の既往歴のある患者には(禁忌)使ってはいけない薬剤

ヒヤリ・ハット事例収集

処方医が把握できていなかった乳がんの既往歴(乳がんを起こした事があるという病歴)を,かかりつけの薬局薬剤師が把握していたため、患者さんに健康被害が起こるのを未然に防く事ができたケースです。
患者さんに、「かかりつけ薬局」をもってもらうのは極めて重要だと思える事例です。

薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業,共有すべき事例に載っておりますが、こちらでも共有させていただきます。

薬局薬剤師が,その職能を発揮した事例です。


事例

【事例の内容】
70歳代女性が婦人科を受診し、エストリール錠1mgとエストリール腟錠0.5mgが処方された。対応した薬剤師とは別の薬剤師が、薬局で管理していた患者情報から乳がんの既往歴があることに気付き、処方医に疑義照会した結果、二剤とも削除となった。

エストリール錠は,『乳癌の既往歴のある患者』には禁忌 の薬剤、
エストリール膣錠は,『乳癌の既往歴のある患者』には慎重投与 の薬剤です。

【背景・要因】
処方医は、患者に乳がんの既往歴があることを把握していなかった。患者は当薬局をかかりつけ薬局としていた。薬局では日頃から既往歴や生活状況などの情報を聞き取り、薬剤服用歴の患者メモ欄に記載していたため、処方薬が患者には禁忌であることに気付くことができた。その一方で、最初に対応した薬剤師は、薬剤服用歴の患者メモ欄にたくさんの情報が残っていたため、乳がんの既往歴の記載に気付かなかった。

【薬局が考えた改善策】
患者から得た情報には優先順位をつけ、薬剤服用歴の患者メモ欄には他の薬剤師が見ても分かりやすい記録を残すよう心がける。

電子薬歴等の患者メモ欄は便利なもので、当薬局でも「独居である」「スポーツクラブに通っている」等、直接薬とは関係の無い内容でも、患者さんの生活状況や健康に関する意識がわかる情報は書くようにしています。

しかし、情報は多ければそれでよいというものではなく、重要な情報が取り出し易く記載されている事が大切です。
患者メモ欄だけでなく、薬歴にも言える事ですね。

 

事例のポイント

●処方監査では、薬剤の相互作用による併用禁忌や併用注意を確認するだけでなく、患者の病態と薬剤の関連性に着目することも重要である。

●既往歴、現病歴、副作用情報、生活状況など患者にかかわる情報を把握し、有効で安全な薬物療法につなげたい。

以下,上記に出てきた薬剤の情報等を確認しておきます。

エストリール錠の基本情報

エストリール錠は 卵胞ホルモン(エストロゲン)製剤です。

エストリール錠の禁忌

エストリール錠は、
乳癌,子宮内膜癌,子宮内膜増殖症,血栓性静脈炎,肺塞栓症,冠動脈性心疾患,脳卒中, 重篤な肝障害,妊婦 等、
には禁忌の(使ってはいけない)薬剤です。

※エストリール錠の添付文書より引用
【禁忌(次の患者には投与しないこと)】
1. エストロゲン依存性悪性腫瘍(例えば、乳癌、子宮内膜癌)及びその疑いのある患者[腫瘍の悪化あるいは顕性化を促すことがある。]
2. 乳癌の既往歴のある患者[乳癌が再発するおそれがある。]
3. 未治療の子宮内膜増殖症のある患者[子宮内膜増殖症は細胞異型を伴う場合があるため。]
4. 血栓性静脈炎、肺塞栓症又はその既往歴のある患者[血栓形成傾向が増強するおそれがある。]
5. 動脈性の血栓塞栓疾患(例えば、冠動脈性心疾患、脳卒中)又はその既往歴のある患者(「その他の注意」の項(3)(4)参照)
6. 重篤な肝障害のある患者[代謝能が低下しており肝臓への負担が増加するため、症状が増悪することがある。]
7. 診断の確定していない異常性器出血のある患者[出血が子宮内膜癌による場合は、癌の悪化あるいは顕性化を促すことがある。]
8. 妊婦又は妊娠している可能性のある女性(「妊婦・産婦・授乳婦等への投与」の項参照)

 

エストリール錠の効能・効果

※エストリール錠の添付文書を参照して作成
・更年期障害、腟炎(老人、小児及び非特異性)、子宮頸管炎並びに子宮腟部びらん
⇒【用法用量】通常成人1回0.1~1.0mg を1日1~2回

・老人性骨粗鬆症
⇒【用法用量】通常1回1.0mgを1日2回経口投与
※(用法・用量に関連する使用上の注意)「老人性骨粗鬆症」に本剤を投与する場合、投与後6ヵ月~1年後に骨密度を測定し、効果が認められない場合には投与を中止し、他の療法を考慮すること。

 

エストリール膣錠の基本情報

エストリール錠も 卵胞ホルモン(エストロゲン)製剤です。

エストリール膣錠の禁忌

エストリール膣錠の禁忌は
乳癌、子宮内膜癌、妊婦 等です。

上で確認した、エストリール錠(内服)よりは禁忌が少ないのは、局所作用を得られる外用薬の利点ですね。

※エストリール膣錠の添付文書より引用
【禁忌(次の患者には投与しないこと)】
1. エストロゲン依存性悪性腫瘍(例えば、乳癌、子宮内膜癌)及びその疑いのある患者[腫瘍の悪化あるいは顕性化を促すことがある。]
2. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
3. 妊婦又は妊娠している可能性のある女性(「妊婦・産婦・授乳婦等への投与」の項参照)

 

エストリール膣錠の効能・効果 用法・用量

※エストリール膣錠の添付文書より引用
【効能・効果】
腟炎(老人、小児及び非特異性)、子宮頸管炎並びに子宮腟部びらん
【用法・用量】
エストリオールとして、通常成人1日1回0.5~1.0mgを腟内に挿入する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

他の女性ホルモン製剤も確認

他の女性ホルモン製剤も一覧で確認しておきます。
※表は、治療薬マニュアル等を参照して作成。

卵胞ホルモン製剤

分類一般名(代表的な)商品名特徴
エストラジオールとその誘導体エストラジオールジュリナ,エストラーナ,ディビゲル,ル・エントロジェル卵巣機能不全,無月経,更年期障害,乳汁分泌抑制,月経困難症など様々な治療に使われる。
副作用では、長期使用時の,乳癌,子宮内膜癌,血栓等に注意が必要。
エチニルエストラジオールプロセキソール
エストリオールとそのエステル体エストリオールエストリール,ホーリン
結合型エストロゲン製剤(止血剤)結合型エストロゲンプレマリン

 

黄体ホルモン製剤

分類一般名(代表的な)商品名特徴
プロゲステロンとその誘導体プロゲステロンウトロゲスタン,ルティナス,ルテウム,ワンクリノン無月経,月経異常,機能性出血,月経困難症等に使用される。
エストロゲンと併用することで、エストロゲンによる子宮内膜癌のリスクを減らせられる
ジドロゲステロンデュファストン
メドロキシプロゲステロン酢酸エステルヒスロン,プロベラ
クロルマジノン酢酸エステルルトラール
ノルテストステロン誘導体ノルエチステロンノアルテン

 

卵胞および黄体ホルモン配合剤

分類一般名(代表的な)商品名特徴
ノルエチステロン系合剤ソフィア機能性出血,月経異常治療に使われる.
月経の移動で使用されることもある.予定の消退出血を早めるか遅くすることにより一定期間の出血を避ける.
合剤ルナベル
合剤メノエイド
クロルマジノン酢酸エステル系合剤ルテジオン
ノルゲストレル系合剤プラノバール
合剤ウェールナラ
その他合剤ヤーズ


最後に

当サイトはあくまで一般的な注意点や説明を記載しています。実際はその方の年齢や性別、その他合併症、併用薬の有無など、個人によって治療方法が異なります。
掲載する情報は、私が薬剤師として自身を持って「正しい」と言える情報だけに限定しています。しかし、日進月歩の医療の世界において、今正しいとされている情報が、未来もずっと正しいとは限りません。そういった理由から、このサイトでも間違った情報を伝えてしまう可能性があります。
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