パーキンソン病治療薬-薬剤師が解説-総まとめ-

薬・治療・病態 各論

パーキンソン病の治療薬について知る際に、まず第一に知っておいて欲しい事があります。
それは、パーキンソン病治療薬の中心は「レボドパ(という薬)」だという事です。

この「レボドパ」はパーキンソン病治療の中心であり、最も効果が得られる薬でもあります。
しかし、レボドパを長期に服用(約4年~)すると特有の副作用が表れやすくなります。

なので、病気の進行具合や、患者さんの年齢、その他患者さんの背景によって、
真っ先に「レボドパ」が使われる 事もあれば、
後の切り札として「レボドパ」はとっておく 事もあります。

 

※一般的に、若い方にはレボドパの長期服用による副作用が起こりやすいので最初に使われる事は少ないです。逆に、高齢者や認知障害のある方には、レボドパの長期服用による副作用は起こりにくいので、最初に使われることが多いです。

※「レボドパの長期服用による副作用」については、次のレボドパの部分で解説します。

 

パーキンソン病という「病気」については、こちらのページのほうがより詳しく述べています。

薬剤師が解説~パーキンソン病のわかりやすい説明~
薬剤師筆者が、パーキンソン病について、なるべく平易な表現を使い、パーキンソン病の患者さんやそのご家族さんが読んでもおわかりいただけるように書きまとめました。※薬剤師筆者が平易な表現で説明する練習のために書いています。※患者様やそのご家...

先に上記ページをお読み頂くことをおすすめします。
先に「病気」について理解したほうが治療薬についても理解しやすくなります。




 

 

パーキンソン病治療薬-各論-

 

詳細は各論で後述しますが、まずはパーキンソン病治療薬は
・「レボドパ」が「主役」
・「ドパミン作動薬」が「準主役」
・「その他治療薬」が「名脇役」
と大雑把に覚えてください。

 

レボドパ

レボドパは、不足している脳のドパミンを補う薬です。
パーキンソン病治療の中心であり、最も効果が得られる薬でもあります。

 

レボドパはどうやって効果を発揮するのか

大雑把な説明ですが「パーキンソン病=脳内のドパミンが不足している病気」です。
では脳に不足しているドパミンを補充すればよい、とドパミンそのものを補充しても、ドパミンは脳内に入っていけないので効果が出ません。
しかし、レボドパは簡単に脳内に入ることができます。
そしてレボドパは酵素(ドパ脱炭酸酵素)という物質によって脳内でドパミンに変換されて効果を発揮します。

※レボドパ単味剤(販売名)
・ドパストン
・ドパゾール

 

ドパ脱炭酸酵素は脳内だけに存在するのではない

しかし、レボドパをドパミンに変換する酵素(ドパ脱炭酸酵素)は脳内だけに存在するのではなく体の至るところにあるので、飲んだレボドパが脳内に届く前にドパミンになってしまい、効果をうまく発揮できなかったり副作用が現れる原因となってしまいます。
そこで、この酵素(ドパ脱炭酸酵素)の働きを抑える作用のある成分を配合した薬が作られました。

※レボドパ・ドパ脱炭酸酵素阻害薬の配合剤
(代表的な商品名)
・ネオドパストン
・メネシット
・デュオドーパ
・イーシー・ドパール
・ネオドパゾール
・マドパー

レボドパ・ドパ脱炭酸酵素阻害薬の配合剤の注意点
これらの薬は空腹時に服用すると、レボドパの吸収が良くなりすぎて効き目が続かなくなってしまいます。
服用は必ず食後にして下さい。

 

レボドパの副作用

日内変動

これがレボドパの長期服用によって起こり、問題となる副作用です。
症状の『日内変動』といって、
・レボドパの効果が出ない時間帯があれば、レボドパの効果が出る時間帯もある
・レボドパの効果が全く出なくなり動けなくなったと思えば、突然効果が出て良くなることもある
といった、効果の変動がレボドパの服用を4年以上続けた頃から表れやすくなってきます。
これは日常生活の大きな支障となり、患者さんとご家族さんを大変困らせる副作用です。

日内変動は下記のような順番で進行してゆくことが多いです。
まずは『wearing off現象』1日のうちでレボドパが効くときと効かない時が表れる。

次に『no on現象』効果がなくなる。や
『delayed on現象』効果が表れるまでに時間がかかる。が表れる。

さらに進むと『on-off現象』
急に薬の効果が切れて動けなくなる(off現象)その後また突然よくなる(on現象)が表れる。

 

ジスキネジア(不随意運動)

自分の意思とは関係なく勝手に手足や首が動いたり、口がモグモグする、顔がゆがむなどの症状の事です。
ジスキネジア(不随意運動)は、レボドパ服用開始の数ヶ月後から1年後に表れやすいです。
足の指が下に曲がる(ジストニア)こともあります。

しかし、ジスキネジアは怖がる必要はありません。これらの症状は薬の効きすぎと考えられますので、薬の量を減らしたり中止をすれば、軽くなるか治まります。

 

消化器症状(便秘・消化不良・吐き気)

ドパミンには、胃腸の運動を抑える作用もあります。ですから
・胃腸の運動が抑えられる ⇒ 消化不良、便秘、吐き気
などの副作用が表れることがあります。

 

血圧低下

ドパミンには、血管を広げる作用もあります。ですから
・血管を広げる ⇒ 血圧が下がりすぎる
などの副作用が表れることがあります。

血圧低下はパーキンソン病の方にとっては非常に怖い副作用です。
血圧低下時に急に立ち上がると脳に行く血液が不足して、立ちくらみを起こす危険があります。
体の動きが悪くなっているパーキンソン病の患者さんが立ち眩みを起こすと、転んでしまい大けがにつながりかねません。
レボドパを服用中は、ゆっくりと立ち上がるなどの注意が必要です。
レボドパ服用中の方が、血圧低下やふらつきがある場合には必ず医師・薬剤師へ相談してください。



ドパミン作動薬(ドパミン受容体作用薬)

ドパミン作動薬は、線条体という神経にあるドパミンの受け皿(ドパミン受容体)に作用して、ドパミンの働きを強める薬です。
レボドパの使用を出来る限り遅らせたい患者さんの場合に、初期治療にはドパミン作動薬がよく使われます。

レボドパと比べるとその効果はやや弱いですが、レボドパで見られるような長期服用での問題が起こりにくいため、最初に使われることが多いです。

※ドパミン作動薬
(代表的な商品名)
・ペルマックス
・カバサール
・パーロデル
・ドミン
・ビ・シフロール
・ミラペックス
・レキップ
・ニュープロパッチ

ビ・シフロール、ミラペックスはうつ症状にも効果が期待できるが、腎臓が悪い方では服用量を減らす必要がある。
レキップは腎臓が悪い方にも通常の量が使用できる。
ニュープロパッチは貼り薬であり扱いやすい。
といった各薬剤の特徴などから、患者さんによって最適なものが選択されます。

 

抗コリン薬 (ドパミンとコリンのバランスをとる)

ふるえにはとても有効なので、ふるえの症状しかない方や、ふるえが改善されない方に使われることがあります。
比較的若い方に使われる事が多い印象です。

ドパミンとコリン(アセチルコリン)の関係

健康な患者さんの脳内では、ドパミンとコリン(アセチルコリン)という2つの神経伝達物質がバランスよく存在することで、うまく機能しています。
ドパミンが多すぎても少なすぎても良くありません。
アセチルコリンが少なすぎても多すぎても良くありません。

パーキンソン病患者さんは、脳内のドパミンが少なくなっていますので、相対的にアセチルコリンが多い状態です。

抗コリン薬は、アセチルコリンという脳内の神経伝達物質の働きを抑えることで、不足したドパミンとのバランスを整えます。
古くから使われています。

※抗コリン薬
(代表的な商品名)
・アーテン
・パーキン
・アキネトン
・タスモリン
・トリモール
・ペントナ

 

ドパミン放出促進薬

筋肉や動作の障害にとても有効で、すくみ足などにも使われます。
特徴として、数日で効くのですが、数ヶ月で無効となることもあります。

昔はA型インフルエンザの治療に使われていた薬ですが、主に線条体という神経からのドパミンの放出を促す作用があり、かつ間接的にアセチルコリンの働きを抑える作用もあるよう。抗コリン薬と同様「ドパミンとコリンのバランスをとる」薬です。

パーキンソン病患者さん以外には脳梗塞の後に、意欲を高めるために処方されることもある薬です。

※ドパミン放出促進薬
(代表的な商品名)
・シンメトレル

 

末梢カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)阻害薬

レボドパの配合薬の長期服用によって、効果が弱まる場合に併用されます。

末梢で(脳内以外で)レボドパを分解する酵素(COMT)を抑えて、レボドパの効果を強める作用があります。

 

 

モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)阻害薬

レボドパの長期の服用により、効果が弱まる副作用に対して使われます。しかし、治療の早期からレボドパと併用することもあります。

線条体という神経にあるドパミンを分解する酵素(MAO-B)の働きを抑えて、レボドパ(ドパミン)の効果を強める作用があります。

※モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)阻害薬
(代表的な商品名)
・エフピー
アジレクト

 

ノルアドレナリン系作用薬

特に、レボドパ服用中にすくみ足や立ちくらみ(起立性低血圧)などが起きた時に追加される事の多い薬です。

脳内に不足しているノルアドレナリン(自立神経刺激物質)を補充する薬です。脳に入りノルアドレナリンに変換されて効果を示します。
副作用として、血圧上昇を起こすこともあります。が、レボドパの副作用で血圧低下が起こっている患者さんに対しては、血圧上昇を期待して使われます。

※ノルアドレナリン系作用薬
(代表的な商品名)
・ドプス

 

パーキンソン病治療薬全般の注意点

レボドパの章では、レボドパに特有の副作用についてかきましたが、ここではパーキンソン病治療薬全体についての注意点・副作用について解説します。

パーキンソン病の症状の増悪および悪性症候群

勝手に服薬を中止したり、服用量を減らすと、症状が悪くなったり、高い熱が出たり、筋肉が固くなる、手足が痙攣する、意識がなくなるなど、命に関わる恐ろしい副作用が現れることもあります。
ですから、自分で飲む量を調節したり服薬を中止することは絶対にしないで下さい。
これは脱水になったときも起きやすくなるという報告が出ています。

 

精神症状

幻覚、妄想、せん妄、錯乱などが現れることがあります。
「黒い虫が見える」「人の顔が見える」など実際にはないものが見えたり、夜中にうわごとを言ったり、異常な行動をしたり、「人に物を取られた」など事実とは異なることを主張することがあります。
ご家族さんはこれらに気づいたら相談するようにして下さい。

精神症状はパーキンソン病そのものが起こすこともありますが、治療薬の副作用で起こることもあります。
特にドパミン作動薬や、ドパミン放出促進薬、レボドパの高用量を使用時にあらわれやすいです。

 

中枢神経抑制

パーキンソン病治療薬の多くが脳に働く薬なので、副作用として『眠気、めまい、ふらつき、集中力がなくなる』などの症状が表れることがあります。
パーキンソン病自体が体が動かしにくくしますので、
車の運転など、危険を伴う機械の操作は行わないで下さい。

 

参考書籍「服薬指導のツボ「虎の巻」」



最後に

当サイトはあくまでも一般的な注意点や説明を記載しています。実際はその方の年齢や性別、その他合併症、併用薬の有無など、個人によって治療方法が異なります。
掲載する情報は、私が薬剤師として自身を持って「正しい」と言える情報だけに限定しています。しかし、日進月歩の医療の世界において、今正しいとされている情報が、未来もずっと正しいとは限りません。そういった理由から、このサイトでも間違った情報を伝えてしまう可能性があります。当サイトの情報は「参考程度」に留めておいてください。当サイトの情報よりも、医師または薬剤師から直接指導を受けた内容を優先してください。当サイトでは、取り上げた情報により生じた損害・健康被害等の責任は一切負いません。

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