※当記事は、日本薬剤師会作成の「褥瘡の知識(pdfファイルが開きます)」という冊子の情報を主に引用・抜粋・編集等して作成しています。
※当サイトはあくまで一般的な注意点や説明を記載しています。実際はその方の年齢や性別、その他合併症、併用薬の有無など、個人によって治療方法が異なります。
これって褥瘡(じょくそう)?
褥瘡の多くは皮膚が赤くなる(発赤-ほっせき)から始まります。発赤の状態で見つけることが出来れば良いですので、おむつ交換時や入浴時にこまめにチェックしてあげます。
発赤が見つかった場合、押してみて白くなれば血流が保たれていますが、「押しても白くならない」または「30分たっても発赤が消えない」場合は初期の褥瘡となっています。すぐに医療機関に相談し、治療を受けましょう。
褥瘡は「予防」「早期発見・早期治療」がとても大事です。
褥瘡治療はどうするの?
褥瘡ケアは、その状態により治療方法が異なります。 状態に適した処置を正しく行えるよう、必ず医師の指示のもとで治療を受けます。
深達度による褥瘡分類
※図・褥瘡の予防・治療ガイドライン:厚生省老人保健福祉局老人保健課監修、宮地良樹編、照林社より
日本の褥瘡予防・治療ガイドラインで用いられた深達度分類です。
Ⅰ度:圧迫を除いても消失しない発赤、紅斑
Ⅱ度:真皮までにとどまる皮膚傷害。
水泡、びらん、浅い潰瘍 といった状態。
Ⅲ度:傷害が真皮を越え、皮下脂肪層にまで及ぶ褥瘡
Ⅳ度:傷害が筋肉や腱、関節包、骨にまで及ぶ褥瘡
浅い褥瘡の治療(Ⅰ,Ⅱ度)
まずはどの状態の褥瘡でも同じなのですが、治療の第一歩は褥瘡予防と同じで、褥瘡の原因となっている「圧迫・ずれ」を取り除くことです。
次に褥瘡の状態に合わせた①~③の治療を行います。
①発赤(ほっせき)の治療
・マッサージは創面を悪化させる原因になることもあるので要注意が必要です。
・創面保護が大切であり、ドレッシング材で覆うことを第一選択とすると良いです。
・外用薬では、創の保護目的に亜鉛華軟膏などが使用されます。
②水泡(すいほう)の治療
・水泡は通常やぶらずそのままにしますが、緊満した場合は浸出液を抜くこともあります。
・水泡が破れた時にはドレッシング材で覆うことを第一選択とします。
・外用薬では、創の保護目的に亜鉛華軟膏などが使用されます。
③びらん・浅い潰瘍の治療
・ドレッシング材での被覆を第一選択とします。
・外用薬では、創の保護目的に亜鉛華軟膏などが使用されます。上皮形成促進を期待してアクトシン軟膏が使用されることもあります。
深い褥瘡の治療(Ⅲ,Ⅳ度)
深い褥瘡の慢性期は創面の色調によって4つの病期に分類できます。
黒色期、黄色期、赤色期、白色期の4つです。
治療方法も病期によって異なります。
図:決定版褥瘡治療マニュアル、福井元成著、照林社より
①黒色期
壊死に陥った表皮や真皮が黒く乾燥し、創面を覆った状態。
壊死組織の除去が治療の中心となります。ゲーベンクリームなどが用いられます。
②黄色期
黒色壊死が除かれ、黄色の壊死組織や不良肉芽などが表面に現れた状態。
壊死組織の除去が治療の中心となります。ブロメライン軟膏やグラニュゲルなどが用いられます。
③赤色期
黄色壊死などが除かれ、赤い肉芽組織が増殖してくる状態。
肉芽形成の促進の治療が中心となります。フィブラストスプレーなどが用いられます。ドレッシング材は浸出液の量に応じて調節し、浸出液が多いときは吸収力の高いものが使用されます。
④白色期
赤い肉芽組織が組織の欠損を埋めるにつれて、創の収縮が起こる状態。
上皮形成や創の収縮の促進治療が中心となります。アクトシン軟膏などが用いられます。
消毒と洗浄について
洗浄(生理食塩液または蒸留水、水道水)のみで十分であり、通常は消毒液は使用されません。
ただし、明らかな創部の感染が認められ、浸出液や膿苔(膿み)が多い時には洗浄前に消毒を行うこともあります。
栄養について
褥瘡には栄養管理がとても大切です。
栄養が十分でないと褥瘡になりやすくなってしまいますし、治癒も遅くなります。褥瘡の予防のためにも、早く治すためにも、栄養面では以下のことに注意してください。
褥瘡(予防・治療)には栄養管理がとても大切です。
褥瘡の予防
少食、偏食を避け、栄養が不足しないようにします。口から食べる意欲のある方には、褥瘡の発生率がすくないというデータもあります。
褥瘡発生時
褥瘡治療に必要な栄養素をとりましょう。
炎症期
・炭水化物(ごはん、パン、麺類)
・たんぱく質(肉、魚、卵)
増殖期
・たんぱく質(肉、魚、卵)
・ビタミンA(うなぎ、レバー)
・ビタミンC(ブロッコリー、キウイフルーツ)
・亜鉛(えび、かに、牡蠣)
・銅(いか、たこ)
成熟期
・カルシウム(牛乳、チーズ、モロヘイヤ、小松菜)
・ビタミンA(うなぎ、レバー)
・亜鉛(えび、かに、牡蠣)
調理するときの注意点
・ビタミンA
ビタミンAは、脂肪にとけやすい性質があるので、炒めたり、油を使った料理と一緒に食べると効果的です。
・ビタミンC
ビタミンCは多くの野菜や果物に含まれていますが「壊れやすい」ビタミンです。長時間水にさらしたり、加熱しすぎると十分に栄養がとれなくなります。また一度に沢山食べるのではなく、こまめにとるようにしましょう。
・カルシウム
カルシウムは乳製品や野菜などに含まれますが、乳製品の方が、野菜に比べると多いのでオススメです。また、ビタミンD(魚、きのこ類)と一緒に食べると吸収が良くなります。
・亜鉛
亜鉛が不足すると褥瘡の治りが遅くなります。亜鉛は、食物繊維やお茶などに含まれるタンニンによって排出してしまうので注意しましょう。
食欲が低下している場合の工夫
・本人の嗜好にあった食事にするのが大事です。
・食事は、なるべくはっきりした味付けにします。例えば、酸味などを利用すると食べやすくなります。
・亜鉛が不足すると味覚障害がおこり、食欲が低下します。亜鉛を多く含む食品をとる工夫をしましょう。
飲み込みが悪い場合の工夫
飲み込みやすいようにとろみをつけたり、ゼリー、ペースト状のものなど食べやすいものにしましょう(豆腐、ゼリー、ポタージュ、山芋など)。
とろみをつける方法として、片栗粉やとろみ剤を使う方法があります。
また、スプーンや食器などを使いやすいものにすると食べやすくなります。
飲み込みなどが困難な方は十分な栄養が補えないので、補助食品などを利用すると良いです。
褥瘡の予防や治療を促進する製品の例
例)アイソカル・アルジネード
不足しがちな、たんぱく質・亜鉛・鉄・ビタミンを強化、アルギニンが含まれています。
例)アイソカルジェリー
たんぱく質、亜鉛、銅などを強化、アルギニンが含まれています。口の中にちらばらないので、むせのある方などに適しています。
薬剤とドレッシング剤(創傷被覆材)について
壊死組織の除去、感染・炎症の制御
深い褥瘡で、壊死に陥った表皮や真皮が黒く乾燥し、創面を覆った状態の時、これを除去するために使われます。
また、最近による感染や炎症を起こしている時、これを鎮めるために使われます。創面の炎症を鎮めなければ良性肉芽は増殖してきません。
ユーパスタコーワ軟膏
・含有するヨウ素の抗菌作用により感染抑制作用を発揮します。
・白糖の吸水作用により創面の浮腫を軽減するとともに、線維芽細胞のコラーゲン合成を促進して良好な肉芽形成効果を発揮します。
※線維芽細胞・・・真皮にある細胞で、コラーゲンなどの真皮成分を生成している。
ゲーベンクリーム
・基剤の新党特性により壊死組織の軟化・融解が生じることで、壊死組織の除去をしやすくしたり創面の清浄化効果を発揮します。
・含有される銀自体の細胞膜、細胞壁に対する抗菌作用により創面の感染制御効果を発揮します。
壊死組織の除去
深い褥瘡で、黒色壊死が除かれ、黄色の壊死組織や不良肉芽などが表面に現れた状態の時、これを除去するために使われます。壊死組織や不良肉芽が創面に残っていると良性肉芽は増殖してきません。
ブロメライン軟膏
・繊維性浸出物の溶解や浸出液の粘稠度を下げることで、また、マクロゴール基剤による痂疲除去効果により、壊死組織の除去をしやすくする作用を発揮します。
肉芽形成の促進
黄色壊死が除かれ、赤い肉芽組織が増殖してくる状態の時、肉芽形成を促進するために使われます。この時期にいつまでも感染制御の薬剤や消毒剤を使用することは、肉芽形成を阻害することになります。
フィブラストスプレー
・FGF自体による血管新生作用や肉芽形成促進作用等によって創傷治癒を促進する。さらには、創傷局所で炎症細胞を動員するとともに、TGF-βなどの成長因子を発現します。
オルセノン軟膏
・繊維芽細胞の遊走能亢進作用、細胞遊走促進作用、細胞増殖促進作用などにより、肉芽形成促進作用および血管新生促進作用を発揮します。
創面縮小の促進
赤い肉芽組織が組織の欠損を埋めるにつれて、創の収縮が起こる状態の時、創面を湿潤環境に保ち上皮形成や創の収縮を促進するために使われます。
アクトシン軟膏
・局所血液改善作用、血管新生促進作用、肉芽形成促進作用、表皮形成促進作用などにより創傷治癒を促進します。
亜鉛華軟膏
・局所収斂作用、保護作用および軽度の防腐作用を発揮することで炎症を抑えるとともに組織修復を促進します。
その他の治療方法
ラップ療法(開放性ウェットドレッシング療法)
創の消毒をしないで食品用ラップなどを直接貼り、浸出液の量が多い創には穴あきポリエチレン袋入り紙おむつを直接貼って治療する方法をラップ療法といいます。
この方法は創の開放と同時に湿潤状態を保つ治療方法で、あらゆる創の状態に対応します。
ラップ療法についても、医療機関に相談の上おこなってください。
コメント