薬剤師が知っておくべき褥瘡予防の基礎知識

薬・治療・病態 各論

薬剤師が、在宅や介護事業所と連携を行う上で必須となる知識の1つに「褥瘡」についての知識があります。

例えば、ある薬剤師が生活習慣病について地域で1番詳しくても「褥瘡」についてあまり知らないのであれば、在宅や介護の現場では頼りにはされません。それくらい褥瘡は介護を行う人間にとって重要な問題であり、当たり前に注意しているものです。

褥瘡についての基本的な内容を改めて一緒に学んでゆきましょう。

※当記事は、日本薬剤師会作成の「褥瘡の知識(pdfファイルが開きます)」という冊子の情報を主に引用・抜粋・編集等して作成しています。


褥瘡(じょくそう)とは

褥瘡は「床ずれ」とも言われ、寝たきりの人などに発生する皮膚の潰瘍を指します。

褥瘡は、起こしてしまわない事が大事なので『適切な予防』と『早期発見』が特に重要です。もし、褥瘡になってしまったとしても早期治癒を目指したケアが大切になってきます。

褥瘡の予防では
・体の内部的な要因(患者さんの病態に応じた栄養管理⇒十分に栄養がとれていないと褥創になり易い)
・体の外部的な要因(持続的な圧迫・摩擦等の排除⇒寝たきりで同じ箇所が圧迫されていると褥創になり易い)
について考える必要があります。

一旦褥瘡になってしまうと、治癒にはかなりの時間がかかります。

褥瘡は『痛い』だけではなく、褥創治癒の際には、感染や汚染など様々な問題に発展するので、介護や看護に当たる方の負担が大きくなりますので、やはり『褥創にならないこと』予防が大事です。

褥瘡ってなに?

褥瘡はなぜできるのか?

褥瘡は、体に「圧力」や「ずれ」が長時間加わることで血液の流れが悪くなり、その結果、皮膚や筋肉等の組織が壊死することで起こります。

褥瘡はどこにできやすいのか?

褥瘡はお尻(仙骨、尾骨、座骨)や かかと、背骨やひじ等、筋肉や脂肪の少ないところにできやすいです。寝ている時だけではなく、座っている時も圧力やずれが集中するとできてしまいます。

褥瘡はどんな人にできやすいの?

ここでは、褥瘡になりやすい方の特徴を5パターン紹介いたします。褥創の出来やすいパターンを知っておくことは予防のために大切です。

1,自分で姿勢を変えることができない

通常人間は、痛みや不快な刺激に対し逃れようとする動きをするので、同じ部分が圧迫され不快に感じると寝返り等、自分で無意識でも姿勢を変えることができます。しかし、運動麻痺意識障害が重度の場合は、この動きが難しくなるため、同じ姿勢を長時間とり続けてしまいます。

2,痛みが分らない、あるいは痛みを訴えることができない

感覚障害意識障害認知症等があると痛みが分からない、あるいは訴えられない状態になります。周囲に自分の痛みを伝えられないと、同じ姿勢でずっといることにつながります。

3,いつもお尻や背中が湿っている

尿や汗により体がしめると、皮膚のバリア機能が落ちます。加えて摩擦抵抗は増えてしまうため、ずれに対して皮膚が損傷を受けやすくなります。失禁や汗の多い方へは注意が必要です。

4,栄養が十分にとれていない

十分に栄養がとれていないと、体がやせて骨がゴツゴツした体になる と同時に、皮膚が弱くなります。偏食が激しい方や、少食の方、痩せた体の方へは注意が必要です。

5,むくんでいる

むくみは血液の流れの悪さを表しています。このむくんだ箇所には老廃物が溜まりやすく、栄養も行き渡りにくいので、褥瘡が出来やすいです。

褥瘡はどうすれば予防できるの?

褥瘡の多くはベッドで寝ている時や車椅子に座っている時に起こります。介護用ベッドや車椅子、褥瘡予防用具について、看護師、理学療法士、作業療法士等と相談しながら、正しい用具を選択し、使用することが褥瘡の予防につながります。

介護用ベッドの使い方

・ベッドを上げる角度と上がっている時間をなるべく少なくすることで、体へのストレスは軽くなります。

①ベッドの背中が上がる点と股関節の位置が合うように、身体の位置を調整します。

②ベッドは足(膝)から上げます。こうすることでお尻が下がることによる『ずれ』がすくなくなります。

③次に頭側(背中)を30度ほど上げます。30度以上上げる場合は、『圧』も『ずれ』も大きくなりますので、なるべく短時間にとどめます。

④背中やお尻のずれをなくすため、ベッドから背中やお尻、かかとを離します。(「背抜き」「肩抜き」と言います) 柔らかいマットレスの場合は、体の回りのマットレスをしっかりと押すことで、同様の効果が得られます。

※最新のベッドは、この①~④の動きを自動で行ってくれるものも多いです。

体位変換の基本的な考え方

・体とベッドの接触面積は大きい方が良い
枕などを使って、ベッドと身体のスキマをなるべく埋めて、身体とベッドの接触面積を増やします。

例①のように、膝が伸びない方の場合はかかとやくるぶしが圧を受けやすいので、枕を使用して膝下の三角形の隙間をなるべく埋めるようにします。

背骨が大きく曲がっている方の場合は例②のように、飛び出している背骨に圧力が集中しないように、ベッドの頭側を少し上げます。それでも背骨に圧力が集中しているようなら、枕を重ねる等して工夫します。

・横向きよりも、30度横向きが良い
完全な横向きよりも、30度横向きのほうが『肩』や『大転子』への負担が軽くなります。右向き⇒上向き⇒左向きというように姿勢を変化させます。(約2時間ごとに行うことが理想的)

文中に出てきた『大転子』の場所は再度こちらの図でご確認下さい。

・バスタオル等を使うと効果的
バスタオル等の上に寝かせ、2人で介助を行うとより『圧』や『ずれ』を与えにくく、より安全に行えます。バスタオル等が使用できないときには、皮膚を強く引っ張らないように注意が必要です。

・服やシーツのしわにも注意
シーツやバスタオル・寝巻きの「しわ」も不要に皮膚を圧迫する要因になります。シーツや着ているものの「しわ」はなるべく伸ばしてあげましょう。

マットレスの種類

色んな種類のマットレスが販売・レンタルされていますので、患者さんやご家族さんへは理学療法士、作業療法士等と相談しながら選ぶことをオススメします。

素材で分けると①ウレタン、②エア(空気)、③ゲル,ジェル等のものに大きく分けられます。そしてこれらの中にも、いろいろな厚さのものがあります。

マットが厚く柔らかいものほど、褥瘡の予防や治癒という観点からは良いです。しかし、厚く柔らかいマットは、寝返り、起き上がり、腰掛け、立ち上がり等が行いにくくなるので、自分にあったものを専門家と一緒に選びます。

下図のように、硬く薄いマットレスでは一部分に圧がかかってしまい、褥瘡にはよくありません。

エアマットレス等を使用して、身体全体で圧を受け止めるようにしてあげることが大切です。

車いすの選び方

車いすには、様々なサイズ、機能があります。使用する方に適さないものを長時間使用することは褥瘡の発生につながります。使用する方の動作能力、姿勢、住環境等を総合的に考えて選びましょう。

普通型車いす

軽量で、介護もしやすい一般的な車いすです。自分で姿勢を変えることができる方に適しています。

リクライニング型車いす

背もたれが倒れる機能をもち、寝た姿勢に近い状態にすることができます。自分で姿勢を変えることができない方に向いています。しかし、リクライニングすることは、身体全体が前へすべることにつながり、お尻に大きな負担がかかるため、褥瘡発生の危険性は高くなります。

ティルト型車いす

座面と背もたれが同時に後方に傾く機能を「ティルト機能」といいます。ティルト機能は、ずれの発生を最小限に抑えることができます。一方、重く、大きな機種が多く、狭い住環境や自動車への積載には適さない場合もあるので注意が必要。

車いすの正しい座位姿勢

正しい座位姿勢がこちらです。

身体の柔軟性が十分にある場合は(身体の硬縮等がない方の場合は)、車いすでもなるべく背筋を伸ばした正しい姿勢で座るようにします。

すべり座りはあまりよ良くありません。

体に合っていない車いすを使用したり、体が固い場合はすべり座りになりやすくなってしまいます。この姿勢では仙骨や尾骨に褥瘡ができやすくなってしまうので、車いすやクッションを適切に使用することが大切です。

車いすクッションの選び方

車いすを長時間利用する方ほど、クッションの適切な選択が大切です。ベッドのマットレスと同様にクッションにも様々な素材、機能のものがあります。使用する方に必要な条件を考え、最適なクッションを選択しましょう。

ウレタン系 エア系 ジェル,ゲル系
圧力分散性能 よい とても良い よい
通気性 とても良い よい 良くはない
耐久性 良くはない とても良い とても良い
メンテナンス性 とても良い 良くはない 良い
価格 安価 高価 高価

車いす座位中の除圧動作

圧力が長時間同じ部位に集中しないようにする動きを『除圧動作』と言います。私たち健康な人間は、長時間座っている時に、足を組んだり、体を前後左右に傾けたりする動作がこれにあたります。

この『除圧動作』ができないと、褥瘡が発生しやすくなります。

簡単かつ安全に行える除圧動作として、前方の机に上半身をあずける姿勢があります。それが下図の「机に前屈した除圧姿勢」です。学生の時、休憩中にこの姿勢をとった事がある方も多いのではないでしょうか。

頻繁にベッドで休息することが難しい場合は、この除圧動作を活用することが、褥瘡予防になります。立つことが可能な場合は、定期的に立つことも除圧のためには効果的です。

まとめ

・褥瘡にならないために予防が大切です。

・褥瘡は体に『圧』や『ずれ』が長時間かかることで起こってしまいます。

・運動麻痺、意識障害、認知症、汗や尿失禁が多い、栄養が不十分、むくみがある方は褥瘡になり易いです。

・自身に合った、介護ベッド、マットレス、車いす、車いすクッションを使用することで褥瘡は予防できます。

・適切な体位変換や、除圧動作を行うことで褥瘡は予防できます。



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